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NARUMIYA PREMIUM STORY
石川県珠洲市

能登の海の恵みと人の手間ひまがつくる、最高の「隠し味」

中前製塩代表・浜士 中前賢一さん

石川県、能登半島の先端に位置する珠洲(すず)市は、約500年も前から伝統の「揚げ浜式製塩」の技を語り継ぐ里。寒流と暖流が混じり合う栄養分の多い海水から採取したこの地の塩は、まろやかな旨味に定評があります。

そんな珠洲市の「塩街道」に位置する大谷町の浜士(はまじ:揚げ浜式製塩の職人)中前賢一さんは、鳴海屋の先代が「和三盆おかき」にはこれ、と選んだ「大谷塩」のつくり手。過酷な労働に支えられてきた「揚げ浜式製塩」を少しでも持続可能なようにと工夫を重ねてきたアイデアマンでもあります。

中前製塩代表・浜士 中前賢一さん

石川県、能登半島の先端に位置する珠洲(すず)市は、約500年も前から伝統の「揚げ浜式製塩」の技を語り継ぐ里。寒流と暖流が混じり合う栄養分の多い海水から採取したこの地の塩は、まろやかな旨味に定評があります。

そんな珠洲市の「塩街道」に位置する大谷町の浜士(はまじ:揚げ浜式製塩の職人)中前賢一さんは、鳴海屋の先代が「和三盆おかき」にはこれ、と選んだ「大谷塩」のつくり手。過酷な労働に支えられてきた「揚げ浜式製塩」を少しでも持続可能なようにと工夫を重ねてきたアイデアマンでもあります。

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能登の重要無形民俗文化財「揚げ浜式製塩」とは?

「揚げ浜式製塩」とは、海から汲み上げた海水を塩田の砂に撒き、天日と風に当てて蒸発させながら濃い「かん水」をつくり、さらにそれを釜で炊き上げて塩を採取する方法。まだ土木技術が未発達で、海面より高い位置にしか塩田を築けなかった時代に編み出された手法で、今では重要無形民俗文化財にも指定されています。

塩分濃度が3%程度しかない海水をそのまま煮詰めて塩を採取しようとすると、時間も燃料も膨大にかかりますが、天日と風を生かした塩田作業を行うことで釜炊きの負担を軽減。原始的ではありますが、いにしえの日本人の知恵がぎゅっと詰まっています。

「昔、500年ほど前に、この辺りでは加賀藩によって製塩が推奨されたんです。海岸沿いで米が育ちにくいですから、農民に米を貸し与える代わりに、お前たちは塩をつくって納めろ、とね。それが「塩手米制度」です。塩は米より価値があったんですよ。」

そう語る中前さんは、建設業から塩づくりに参入した経歴の持ち主。「塩づくりは面白いから」と、動機はいたってシンプルですが、朝3時半に起きて午前中は製塩の仕事をし、午後はご自身が代表を努める建設会社や製材所の仕事をする、という2足のわらじ生活を10年も続けたというのですから、そのタフさには驚かされます。

「今は自分が一番年配になってしまったけども、当時は昔塩田をやってた先輩たちが親切に教えてくれたんで、本当に助かったね。昔はこの辺り一帯が塩田でね、塩が専売ものだった時代にも、大谷塩といえば評判だったんです。」

伝統に創意工夫を掛け合わせて、塩づくりを次世代につなぐ。

伝統の「揚げ浜式製塩」では、汲み上げた海水を打桶(おちょけ)と呼ばれる専用の手桶を操って塩田に撒き、その後塩田の砂を混ぜ広げて、天日と風に晒します。そして数時間かけて水分を飛ばしてから、塩のまとわりついた砂を集めて「垂れ船」という木枠に入れて、上から海水を注ぎ、濃度の高い「かん水」を漉し取るのです。昨今は、海水を撒くのに打桶ではなくホースを使うなど効率化が図られてきましたが、依然として「かん水」集めが肉体的にきつい作業であることに、中前さんは危惧の念を抱いていました。

「温暖化が進み、作業がますます過酷になる中で、後継者が減っていく状況をなんとかできないかと20年間ぐらいずっと考えてたんです。それでたどり着いたのが“砂を集めない”方法。うちの塩田は見ての通り、少し傾斜がついていて、隅の樋(とい)から水が落ちるようになってるでしょう。この塩田に海水を撒くと、天日で自然に水分が蒸発するので、ポタポタ落ちて集まるやつは塩分濃度8%ぐらいになってます。それをタンクに集めて、もう1回塩田に撒くと、砂利に絡まった塩も流れ落ちて、塩分濃度15%前後の“かん水”になるわけです。」

中前さんにヒントを与えてくれたのは、なんとNHKの朝ドラ。主人公の夫が戦後に塩づくりに乗り出す場面でした。熱々に日に焼けた鉄板を斜めに立てかけ、その表面に海水を流して水分を蒸発させながらかん水をつくるシーンを見て「これだ!」と思った中前さん。建設業出身の強みを生かして、砂を使わない新しい塩田を自らの手で作り上げてしまいました。

「少しずつ実験を繰り返していって、最終的に全部このやり方に切り替えたのが3年ぐらい前。塩の味が変わっちゃうんじゃないかという不安はありましたけど、うまく行っていますね。ちょっとこれ、舐めてみてください。”かん水”になる手前の濃度12%ぐらいで、まだあまりしょっぱくはないけど旨味があるでしょう。天日で乾かすからこの味や香りが出るんで、機械でやると苦辛くなっちゃうんですよ。」

天日と風で乾かすという伝統を生かし、昔ながらの風味を守りながらも、持続可能な方法を考える。「いろんなことをやってみるのが好き」というアイデアマン・中前さんらしい選択です。

薪の火力で炊き上げてつくる、自分好みの塩。

こんな工夫が満ちた塩田作業を経て、ようやく塩づくりは釜炊きの工程へ。天気が良ければ1日ひと釜炊けるだけのかん水が溜まりますが、こればかりは空次第。雨に降られてしまうと、かん水の濃度が一気に下がって台無しになってしまうため、中前さんは長年の経験と勘で天候を予測しながら塩田作業を段取りします。

釜炊き作業は、塩分濃度24〜25%まで6〜7時間煮詰める「粗炊き」と、2日ほど時間をかけて塩を結晶させてゆく「本炊き」の2段階に分かれます。私たちがお邪魔した時には、大鍋の中で茶色っぽい液体がプクプクとあぶくを立てていました。

「熱源は全部薪だから、火加減がむずかしいんですよ。ガスで炊いてもいいけれど、やっぱり自分好みの塩の仕上がりには薪がいいんでね。だから冬の間は薪づくりが大事な仕事です。」

鍋の中では既に塩の結晶が生じ始めていますが、この時点ではまだ、にがりをたっぷり含んで尖った味。これをじっくりと仕上げ炊きにかけて好みの粒目にしますが、煮詰めすぎると粒が細かくなりすぎるため、見極めは瞬間の勝負です。こうして釜から上げた塩は、程よくにがりを抜いて、ようやく中前流「大谷塩」ができあがります。


ほんのり甘い余韻が残る、滋味豊かな中前さんの塩は、人気料理店やパティシエからも一目置かれる逸品。これからはその塩の粒を舌に乗せるたび、あの雄大な能登の海が脳裏に浮かぶことでしょう。

5代目の「目」
5代目の「目」NARUMIYA’s VOICE
和三盆の上品な甘さをまとった鳴海屋の「和三盆おかき」に欠かせないのが、中前さんの「大谷塩」。淡雪のような口当たりに寄り添い、素材の味を引き立ててくれるところが魅力です。そしておいしさだけでなく、伝統の自然塩づくりを次世代に伝えていくために創意工夫を重ねてこられた中前さんの姿勢にも敬服します。76歳になった今も「大谷塩」のほかに藻塩や梅塩、海藻加工品、はたまた醤油まで、とにかく「自分の手でつくる」ことに情熱を注ぎ、楽しんでいるお姿を見ると、こちらも刺激を受けますね。
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